
任意後見契約とは?
〜もしものときに備えて、信頼できる人に“将来の安心”を託す制度〜
人は年齢を重ねると、病気や認知症などにより判断能力が低下することがあります。
そんなとき、自分の意思で生活の管理や契約手続きをするのが難しくなることも。
任意後見契約は、将来の「もしも」に備えて、信頼できる人をあらかじめ選び、財産管理や生活のサポートをお願いしておける制度です。
まだ元気なうちに、「この人なら任せられる」という人と契約を結んでおくことで、将来、認知症などになっても自分の生活をしっかり守ってもらえる仕組みです。
認知症になると、こんなことで困ることがあります…
認知症が進むと、これまで当たり前にできていたことが難しくなってしまいます。
- 銀行口座や通帳の管理ができない
- 介護サービスや施設入所の契約ができない
- 通院や医療手続きが自分でできない
- 生活費の支払いを忘れてしまう
- 重要書類の処理や役所の手続きができない
特にお一人暮らしの方は、周囲に頼れる人がいない場合も多く、経済的にも健康面でも大きな不安を抱えるリスクが高まります。
また、本人の意志で身の回りのことを適切に管理できなくなると、「セルフネグレクト(自分を放置してしまう状態)」に陥り、命に関わる深刻な問題になることも。
「自分では難しいこと」を代わりに支える制度
それが「成年後見制度」です
成年後見制度は、認知症などによってすでに判断力が低下してしまった方を支援するための仕組みです。
平成12年からスタートした公的制度で、本人の権利を守るために法律的な手続きや生活支援を行う「成年後見人」が選ばれます。
後見人は、たとえば次のようなサポートを行います。
- 財産の管理や支払いの代行
- 医療・介護などの契約手続き
- 本人に不利益がないよう生活全体を支える役割
この制度では、家庭裁判所が関与し、後見人の行動は常に監督を受けることになります。
後見人は、後見監督人や家庭裁判所に対して定期的に報告書を提出し、財産管理の透明性を求められます。
成年後見制度は、本人の生活や財産が適切に守られるよう、制度全体で支える仕組みです。
よく似ている、成年後見制度とは
任意後見と混同されがちな制度に、「成年後見制度」があります。
これは、すでに認知症などで判断力が不十分になってしまった方をサポートする制度です。
成年後見制度のポイント:
- 家庭裁判所が後見人を選びます(本人の希望ではなく裁判所の判断)
- 後見人は、本人の財産や生活を法律的に管理・契約します
- 後見人の行動は、後見監督人や家庭裁判所のチェックを受けます
- 後見人には報酬が支払われます(本人の財産から)
つまり、すでに判断ができない状態になってからのサポートが成年後見、
将来に備えて自分で準備できる制度が任意後見、という違いがあります。
任意後見と成年後見の違いは?
任意後見契約 | 成年後見制度 | |
発動のタイミング | 判断能力があるうちに自分で契約 | すでに判断能力が低下している場合 |
後見人の選び方 | 本人が自由に選ぶ | 家庭裁判所が選任 |
主な対象者 | 今は元気だが、将来に備えたい方 | 認知症などでサポートが必要な方 |
裁判所の関与 | 開始後に監督人がつく | 最初から裁判所の監督あり |
費 用
任意後見契約公正証書作成 | 132,000円〜 |
任意後見契約月額(効力発生後) | 16,500円〜 |
公証役場手数料 | 下記ご参照ください |
公証役場への手数料
次のとおりの費用がかかります。
- 公証役場の公正証書作成手数料
1契約につき1万1000円。それに証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます。
なお、本人が病床にあって公証人が出張する場合には、病床執務加算(5500円)があり、1契約につき1万6500円となります。また、日当と交通費も必要となります。 - 法務局に納める収入印紙代
2,600円 - 登記嘱託手数料
1,400円 - 書留郵便料
登記申請のため法務局に任意後見契約公正証書謄本を郵送するための書留料金ですが、その重量によって若干異なります。 - 正本謄本の作成手数料
証書の枚数×250円
※ 任意後見契約と併せて、通常の「(財産管理等)委任契約」をも締結する場合には、その委任契約について、更に手数料が必要になります。
※ 受任者が複数になると、受任者の数だけ契約の個数が増えることになり、その分、費用も増えることになります。ただし、受任者の権限の共同行使の定めがあるときは、1契約として計算されます。
出典:日本公証人連合会(Q 22. 任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか?)
任意後見契約を作成する際の注意点
法的に有効な「任意後見契約書」を作るには?
まず、大事なポイントをお伝えします。
任意後見契約を法的に有効にするためには、「公正証書」として作成する必要があります。これは、公証役場で公証人に作ってもらう正式な書類です。法律でこれが義務づけられており、本人同士で書いた契約書だけでは効力がありません。公正証書でなければ、後見がスタートできないのです。
ただし、公証人に全部任せればよいというものでもありません。
任意後見契約は、本人が元気で判断力があるうちに結ぶ「委任契約」です。後見が始まったときに、本人の意思がきちんと後見人に伝わっていることがとても大切です。そのため、契約書には「どんな後見をしてほしいか」という本人の考えや希望をしっかり反映させておく必要があります。
1. 任意後見契約の基本事項
契約の趣旨
この契約が「任意後見契約に関する法律」に基づいて成立・適用されることを明記します。定型文ですが、最も大切なのは「誰を任意後見人にするか」です。信頼できる人を慎重に選びましょう。
契約の発効・任意後見監督人の選任
契約が有効になるのは、家庭裁判所によって「任意後見監督人」が選ばれたときです。これも契約書に明記しておきます。選任請求は、受任者(将来の後見人)が行います。
2. 実務に関する内容
後見事務の範囲(代理権)
後見人がどのような事務を行えるかを明確にします。一般的には次のような事項を「代理権目録」として定めます:
不動産や預貯金の管理
日常生活の契約
行政手続き
医療や介護に関する対応
必要に応じて、削除や追加、修正も可能です。契約内容の中でも特に重要な部分なので、よく検討してください。
身上配慮の責務
後見人には、本人の意思や生活に配慮した対応を求める条項を設けましょう。医療機関、介護サービス事業者などと連携し、本人にとって望ましい対応ができるようにします。
ライフプラン(別紙として記載)
より具体的な希望を記録しておくことで、後見人が適切な判断をしやすくなります。例えば:
自宅介護 or 施設入所の希望
希望する医療方針や病院
終末期医療に対する考え方
3. 契約後の管理と手続き
証書の保管・書類の作成
契約後、後見人が扱う大切な書類や証拠類の保管方法を明確にします。また、後見事務の実施状況を確認するため、後見人に定期的な記録や書類の作成を求める内容を入れておくと安心です。
報告義務
任意後見監督人に対して、定期的に報告を行うことを契約に盛り込みます。例:3ヶ月ごとの報告。報告頻度は自由に設定可能です。
4. 費用や報酬の取り決め
費用の負担
原則として、後見人がかかる費用は本人の財産から支出されます。その旨を明記しておきます。
報酬の有無
報酬を支払うかどうかも事前に決めておきましょう。家族などが後見人の場合は「無報酬」とするケースもあります。
5. 契約の変更・終了
契約の解除
契約は委任契約なので解除も可能です。
監督人選任「前」:理由なしで解除可能(ただし公証人による手続きが必要)
監督人選任「後」:家庭裁判所の許可が必要になります。
契約の終了
民法に定められた終了事由が発生した場合(死亡など)、契約は自然に終了します。
6. 守秘義務
法律上の義務ではありませんが、任意後見人に秘密保持を求めたい場合は、契約に「守秘義務条項」を設けましょう。家族が後見人になる場合には特に重要です。
安心できる将来のために、今できることを
任意後見契約は、「将来、どのように療養や財産管理をしてほしいか」を自分の意思で決めておくための大切な契約です。
判断力がしっかりしている今だからこそ、「どんなサポートを誰にお願いするか」を自分の意思で決めることができます。
任意後見契約は、あなたの未来に対する「安心の準備」。自分らしい生き方を守るために、任意後見契約の内容は丁寧に検討する必要があります。そして、契約書の作成は公証役場で行いますが、「誰に任せるか」「どんな支援をしてもらいたいか」はライフスタイルに合わせ、本人が事前によく考えておく必要があります。
この先も自分らしく幸せに暮らし続けるために、ぜひお時間をかけてご検討ください。