複数の遺言書が出てきたときの取扱はどうすべきか?

民法では遺言書は1通しか残せないという決まりはありません。ですから、遺言者の意思や気持ちが変わり内容が違う遺言書が複数でてくるといったケースも十分考えられます。
そのとき、どの遺言書に従って相続手続きを行えばよいのか判断に迷うことがあるかもしれません。いったいどの遺言が有効なのかを判断する必要があります。

判断のポイントは「日付」そして「内容」に着目します。

順番に詳しく解説します。

遺言書の日付を確認する

遺言者の死期に近い日付が優先されます。つまり、新しい日付の遺言書が有効ということになります。
この場合、古い遺言書は取り消されたとみなされます。

例えば、遺言者が令和5年に亡くなったと仮定します。

遺言者の書斎から令和3年に「長男に全ての財産を相続させる」内容の遺言と令和4年に「長女に全ての財産を相続させる」内容の遺言書が出てきたケースでは、新しい日付の遺言書に効力があるということを前提に、最新の日付の書かれた遺言書をもとに相続手続きを進めることが正解です。

つまり、古い遺言書は取り消されたとみなされますので、長女が財産を相続する形となります。

遺言書の内容が抵触していないか確認する

民法では前の遺言と後の遺言との抵触等について定めています。

ユキマサ

民法第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)

第1項
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

民法1023条

ここでの注意ポイントは、日付の次に内容の抵触の有無を確認する必要があります。

といいますのも、遺言書の効力があるという前提で、書かれてある内容に矛盾がなければ、それぞれの遺言書に効力がある状態です。

例えば、古い遺言には不動産について書かれており、新しい遺言には預貯金について書かれているということであれば、このケースでは相続財産が異なり、内容が抵触しないため、それぞれの遺言書に効力が発生するというように考えます。
つまりどちらも有効な遺言書と考えます。

遺言書はできるだけ1通にまとめて作成する

遺言書は内容の変更という形で対応することもできますが、訂正するより、新たに作り直した方がよい場合があります。
自筆証書遺言の訂正方法は法律で厳格に決まりがあります。万一訂正した箇所が無効となれば、訂正した意味がなくなり、遺言者の思いが形になることはありません。確実な遺言書を作りたいのであれば、新たに作り直すことをおすすめします。

訂正の仕方

訂正箇所に二重線を引き、押印を押します。
そのうえで、加筆・修正した文章のすぐ近く、もしくは遺言書の末尾に、「◯ページ ◯行目 ◯字削除、◯字加筆(または修正) 署名」などと記載します。

ユキマサ

民法第968条3項(自筆証書遺言)

自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

民法968条

内容が難しと感じたり、少しでも不安があるようでしたら新しく作り直す方がいいかもしれません。

新しく遺言を作り直すときは、前の遺言を撤回する

ユキマサ

民法第1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

民法1022条

遺言の撤回は法律でみとめられた権利ですので、遺言者は遺言の撤回ができます。
新しく作成する遺言書に次のような文言をいれておきます。

【文例】
遺言者は、遺言者が本遺言の前に作成したすべての遺言を撤回し、ここに改めて以下のとおり遺言する。

この文言をいれておくことで、過去に作成した遺言を撤回した旨を新しく作成する遺言書でしっかり明示しておきます。

過去の遺言書の処分を忘れていたり、遺言書の内容が違うものがいくつもでてきたり、など、もしもの事態に備える必要ががあるからです。

まとめ

これまで解説した内容を参考に、複数の遺言を作成することは、後の執行手続きに負担や混乱を招いたり、適切な執行ができないことも考えられます。
複数の遺言書の作成は望ましいものではありませんので、できる限り最小限にしたほうがいいです。

そして、もし亡くなった方の複数の遺言書が発見された場合は、内容の矛盾や有効性の判断を十分に行い、慎重かつ適切な手続きを踏むことが大切です。状況によっては、専門家に相談し法的なアドバイスを得ることが賢明かもしれません。