親が認知症になると親自身では法律行為ができなくなってしまう

親が認知症になると、同居・非同居にかかわらず、ご家族内の心配事が増えるケースがほとんどではないでしょうか。
それは、ご本人も苦しくまた、ご家族も悩みの種が増えることとなり日常生活に支障がでてくることがあります。

そこで今回は「親の認知症」に備えた対策をご紹介します。

初めに、成年後見について調べると、「法定」という言葉が頻繁に見られ、これに基づいて誰かが必ずしも後見人に指定されなければならないのかという疑問が生じることがあります。これに対して、この制度自体が任意のものであるため、特に申し立てがない限り、誰かが自動的に後見人になることは、ほぼありません。

しかし、一旦相続などが発生すると高確率で認知症の方に後見人が付いていないと遺産分割や銀行の解約手続きなどが進められない場合がほとんどです。また、相続放棄をする場合もそう簡単に相続放棄ができない場合もあります。

それはどういうことかというと、選任された後見人は被後見人の代理として財産の保護・管理を行うほか必要とされる契約の締結等を目的にしていますので、財産が減る行為は基本、家庭裁判所の厳しい審判をクリアする必要があるからです。少し難しい話になりますので、この相続放棄の話はまた別の回にしたいと思います。

話を戻しまして、この後見制度の活用ポイントをひとことで言うと「親が元気なうちに!!」です。
認知症になり判断能力が低下すれば、法定後見一択になります。任意後見制度は使えなくなります。以下で詳しく解説します。

法定後見制度(成年後見)

法定後見制度とは、精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力が著しく不十分な方を保護・支援するための制度です。
本人の判断能力の程度に応じて、「後見」、「保佐」、「補助」の3つの類型が用意されています。今回は主に「後見」の記事です。

この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことがでるようにトラブルを未然に防ぐものです。ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、取消しの対象になりません。

後見人は、本人の生活・医療・介護・福祉など、身のまわりの事柄にも目を配りながらご本人を保護・支援します。
具体的には、本人の不動産や預貯金等の財産を管理したり、本人の希望や身体の状態、生活の様子等を考慮して、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、利用契約の締結や医療費の支払などを行ったりします。

任意後見制度

任意後見制度とは将来の判断能力低下に備えて、代理人を事前に決めておくという制度です。
この制度は法定後見制度とは違い自分で決めた人を後見人として選ぶことができます。この任意後見制度のポイントは元気なうちにしか使えないところです。

なぜかというと、「私に何かあったときは財産管理をお願いします」という契約をすることになりますので、認知症で意思表示をする能力がないとそもそも契約ができないんです。契約する能力が残ってない方は法定後見制度を利用せざるを得ないとなることになるわけです。

任意後見契約を仮にご両親とあなたとの間で結んだ場合、必ず公正証書にしなければ効力がありません。
そして報酬は家族間なので無報酬も考えられますが、報酬は設定しておいたほうが良いかもしれません。

一般的に弁護士や司法書士・税理士・行政書士といった士業がなる場合は、管理する財産にもよりますが、3万円〜5万円が目安になります。いざ、認知症が発症し任意後見人の業務を開始すると、裁判所や任意後見監督人に対して財産管理の報告書を提出したり銀行に行ったりなどと様々やる事が出てきますので、報酬はゼロ円じゃない方がいいと思います。

そして、一度業務が開始(任意後見の発効)されると特別の事情がない限り任意後見人を継続しなければなりません。途中で辞めたり解約することが難しいです。業務上、当然責任が発生しますが、裁判所から知らない人(専門職後見人:一般的に弁護士・司法書士・社会福祉士・行政書士)を就けられてしまうことを防ぐという意味では有効な対策だと思います。

成年後見人の仕事

後見人は次の3つの理念を根底に仕事を行います。

3つの理念:
「ノーマライゼーションの尊重」・「自己決定の尊重」・「現存能力の活用」
高齢者や障害者を排除するのではなく、健常者と同等に社会生活を営むことができる社会を実現させるという考え方。

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①財産管理
②身上保護
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財産管理
◆ご本人の預貯金や不動産など財産を管理したり、生活や健康・医療に関する支援をします。
【具体例】
・預貯金や印鑑、有価証券の管理
・年金の管理や社会保障関係の手続き
・預貯金の払い戻しや税金・公共料金の支払い
・不動産の管理

身上保護
◆介護、施設入所、医療などに関する契約やご本人の生活に関する法律行為を行います。
【具体例】
・介護サービスの契約手続きや入院手続き
・施設の入所手続きや介護費用の支払い
・生活費の送金や医療費の支払い
・ご本人の居住の賃貸借契約の締結や家賃の支払い

※後見人の仕事内容や役割に次の行為は含まれません。
直接、ご本人の介護といった食事のお世話、入浴の介助、身辺の清掃などといった「事実行為」は法律行為ではありませんので、後見契約の対象外となります。

この事実行為は第三者の後見人以外。つまりご家族でしたら、後見人としての仕事ではなく、家族・身内として行うことはできます。

任意後見人の仕事が開始するとき

親の認知症がはっきり確認できない場合でも、周りのサポートが必要と感じるシーンに出くわすと、認知症が進行しているサインかもしれません。中には、自分の銀行口座からお金の下ろし方がわからなかったり、自分自身の行動を理解できていなかったり、1人では日用品の買い物もままならなくなったりなどは、早期に対応しなければならないケースです。
そうなると、精神科や心療内科の専門医士に診断書を書いてもらい、家庭裁判所に「後見監督人選任申立て」の申請書と合わせて提出する流れで行います。

任意後見監督人の決定には通常1ヶ月程度ですが、中には2〜3ヶ月ほどかかる場合もあります。そのため、ご家族間で話し合い、早めに対応をする必要があります。

任意後見監督人とは

任意後見監督人は、高齢者や障害者などが自らの意思で指定することができる後見人を監督する立場の人のことです。後見監督人は、後見人が法律に基づき適切に被後見人の財産や生活を管理しているかどうかを確認し、必要に応じて助言や指導を行います。後見監督人は、後見人が被後見人の権利や利益を尊重し、最善の利益のために行動していることを確認することが主な仕事です。

任意後見人はこの任意後見監督人と一緒に、本人のために、ときにはアドバイスを求めながら法律的なサポートを行なっていきます。

任意後見契約の終了

任意後見契約は、委任契約であり、民法で定められている委任契約の終了事由が適用されます。
具体的には、以下の3つの場合に任意後見契約は終了します。(民法653条1号から3号)

  1. 本人または任意後見人の死亡:被後見人または任意後見人が死亡した場合、契約は終了します
  2. 本人または任意後見人の破産:被後見人または任意後見人が破産した場合、契約は終了します
  3. 任意後見人に後見が始まったこと:後見が任意後見人について始まった場合、任意後見契約は終了します

これらの事由が発生した場合、任意後見契約は自動的に終了します。

もし、任意後見契約を解除する場合、公正証書による厳格な手続きが必要です。
具体的には、以下の手順が必要となります。

  1. 公証人による書面の作成:解除を希望する当事者が公証人に依頼し、公証人が認証した書面を作成します。
  2. 公証人による認証:作成された書面は公証人によって認証されます。
  3. 家庭裁判所の許可:すでに任意後見が始まっている場合、本人の保護が必要な状況であることを示す正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。この条件は、任意後見人が辞任する場合と同様です。
  4. 解除の完了:公証人によって認証された書面と家庭裁判所の許可が得られた後、任意後見契約は解除されます。

任意後見契約の解除は、慎重に行われるべき手続きであり、公正な判断が求められます。

まとめ

任意後見制度は、本人の意思を契約書に反映させることにより、本人の判断能力が不十分な状況になった後も、任意後見人が可能な限り契約締結時の本人の意思に基づく本人の生活、療養、看護、及び財産の管理に関する事務を行うことができるようにする制度です。専門家に費用が発生することに納得がいかず、制度利用を敬遠する方も多いのも事実です。こらから制度が改正される予定がありますのでそこに期待したいと思いますが、日々の生活は待ったなしで進んでいますので、もし少しでも制度を活用したいとお考えの方は地域の社会福祉協議会や包括支援センター。弁護士や司法書士、社会福祉士、行政書士に相談してみてはいかがでしょうか。

最後に、この制度のみでは本人の生活をすべてをカバーしきれない部分が出てきます。別途ご紹介する家族信託と併用するとことで本人の権利の擁護等の目的に限定されず、財産管理を自由に設計できるところにそのニーズがあります。これにより、家族信託の特徴を活かしつつ、そのデメリットを減少させて、本人の福祉に配慮した財産管理等が可能となります。

例えば、本人が生前にご家族と信託契約を締結し契約内容を設定して信託財産として管理し、本人の死後も継続して信託が運用されるようにすることができます。このように、家族信託と任意後見制度を組み合わせることで、本人やその家族が望む財産管理や遺産の配分などをより柔軟に実現することが可能です。